【塩川恭子の食コラム】幸せな食卓とは ―たまごかけご飯に思う―
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2008年01月25日
新米のおいしい季節である
炊きたてのご飯に新鮮な卵をポンと割りのせてお気に入りの醤油を数滴。ササッと混ぜてかき込む――。食事の作法を重んずる方なら眉をひそめるだろうこの食べ方。これぞニッポンの味とご飯党ならではの醍醐味が味わえる。
この「たまごかけご飯」がひそかにブレイクしているという。スーパーやコンビニの棚に並ぶ「おたまはん」は専用の醤油の小瓶。ドライブインでは、新米の米俵の隣に大量の卵のパックと醤油が大陳列してあった。
このブームの仕掛け人は島根県奥出雲の「たまごかけシンポジウム」のメンバーの面々。山村地区の特産品の企画開発担当者、醤油醸造、そば製造業、海産干物、練り製品、乳業など業種、業態を越えて地域活性化のために活動してきた人たちである。「家庭で料理をしなくなって醤油の消費が減っちゃった」「若者はパンやスパゲッティ。主食の米は影が薄いよ「」あったかい白飯に卵かけただけで旨いのになあー。」いつもの寄り合い席でのこと、何気ない会話の中からコロンブスの卵ならぬ「たまごかけご飯」のアイデアが誕生したという。
奥出雲地方は「命をはぐくむ農業」をテーマに早い時期から地域ぐるみで有機農業や正しい食の普及を実践してきた。米も醤油も農産物も「ほんものがあたりまえに有る」ところなのである。当然のことながら、ご当地の「たまごかけご飯」は旨い。
仕掛けてから約6年、確かな食への見直しの機運と相まって一気に広まった。このブームに乗ってたまごかけ用の醤油が全国あちこちの蔵で誕生し、チームは業界や県から表彰されるに至った。
お母さんたちが台所を放棄しはじめたといわれてから久しい。食卓の上の手作り風惣菜も外からの調達品、炊きたてご飯はスーパーの売れ筋である。一見豪華に見える食卓。でもそこには大事なものが欠けてはいないだろうか。
家庭料理の崩壊は家族の崩壊、そして社会の崩壊へとつながりかねない。昨今、ひきもきらない食品業界の嘘やごまかしの発覚。連日のように目にする関係者の謝罪の場面に「あなた方だけの責任よ」と声高に言い切れるだろうか。安価で便利で見掛けがよくて長持ちする。しかも美味しく、できたて!がいい。皆が望んだもの、売れるものへと、業界も消費者も皆で走った結果にすぎない。生産者はなげく。「やれ有機だ、無農薬でつくれと消費者は言う。でもちゃんと買ってくれるの?ごまかしをして安くつくったものと価格だけ比較して、高い高いと結局売れないんだよ」と。
家庭の味の喪失だけに留まらない。食材のつくられ方、素材の特徴、調味料の善し悪し、鮮度、味付けなど「食べもの」を選び極める力が育たない。結果、賞味期限、消費期限というシール頼みとそのチェックに追われ、いつも「誰かのせい」という責任転嫁に行き着いてはいまいか。
炊きたてのご飯に産地の棚田を想い、ひとしずくの醤油に日本の伝統食品への感謝を、そして一個の卵に「命を頂くありがたさ」に合掌。この上ない幸せな食卓である。
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