【産地研修レポート】 新春「食の学校」訪問セミナー報告
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2009年04月27日
2009年1月16日(金)
微生物に学ぶ発酵道
寺田啓佐社長のお話と自然酒の寒仕込みを見学して

今回の見学は寺田さんが微生物から学んだことを伝える場として蔵見学の機会を与えてくださったと聞いて楽しみにしていた。酒米の洗い場から蒸し器、室など、すっかりオープンな見学スタイルで、大木代吉本店の大木会長によると、「外から来た人がどこにでも入ったり、またその工程を体験させてもらえるなんて、今までの概念では有り得ない」ことのようだ。確かに行きのバスの中で誰かが「朝、納豆を食べている人は蔵に入れない」という話をしていた。しかし、寺田本家の蔵は、そんなことはお構いなし。いろいろな菌が蔵に運ばれることを逆にありがたいと言う。発酵を専門にしている参加者の方々の目が真ん丸く、「本当に平気なの?ウチでは決して有り得ない」とボソッと呟くのが興味深かった。見学をしていくうちに、参加者から「目から鱗、根底から考え方を見直さなきゃ」って言葉を耳にするようになる。
もう一つ興味深かったのが、笑顔と感謝の言葉。蔵人の人たちとのさりげないふれあいの中にそれを感じた。蔵の空間すべてに漂っている、目を瞑っても感じるこの心地よい場から造られるお酒はさぞや美味しいだろう。
酒屋唄
昔から酒屋には唄がつきものだったという。昔の日本の暮らしには唄が寄り添い、農家や漁師、職人など様々な手仕事の現場で「仕事唄」が歌われていたそうだ。寺田本家では手仕事でお酒を造っていこうとした時に、蔵人の一人が酒造り唄を口ずさみ始めた。蔵人がいつしか皆で唄うようになった。
この唄は様々な意味を持つことに驚かされた。その一つが時間の計測。時計の無かった時代には唄で時間を計り仕事の量も決めていたそうだ。熟練の技だなと思ったのが、唄の長さは杜氏がお米の硬さや蒸し具合から判断して決めていること。一定の仕事をすることとは機械で測定することではなく、熟練から生まれる鋭い感覚からだった。
山卸という、判切り桶に水と蒸米と麹を入れ、櫂棒で繰り返し潰す作業の中で酒屋唄を聞いた。2人一組で判切り桶に櫂を入れ、腹の底から声を出し、櫂棒で操りリズムを刻みながらすりつぶしていく。全体の工程がリズミカルに、何とも和やかな、そこにはまさに「和」が生まれている。蔵人が言う。「楽しくお酒を造ることで微生物と響きあうんです」いやいや、楽しい気の詰まったお酒じゃあ、飲んだ人も楽しいでしょうね。その通り、昼食で出された「五人娘」に「醍醐のしずく」は飲めば飲むほど気分は盛り上がり、会話も進む。

微生物との響きあい
発酵が進み、ブクッ、ブクッ、ブクブクッと泡だっているタンクを見学。微生物の楽園であるこのタンク。寺田さんが「微生物のパラダイスは皆さんのお腹の中にも存在しています。お腹の中にいる微生物の数は100兆個以上。人間1人の細胞の数が約60兆個。それをはるかに上回る数の菌がお腹の中に住み着いていますよ。」と。わぁー細胞より多いの!?想像がつかない量に仰天するだけだった。耳を澄ますと、ここでもリズミカルな音が聞こえる。ここに住み暮らしてきた微生物達が楽しく力を合わせて発酵を続けている活動のリズムであった。「微生物がイキイキ・ワクワクしだすと、楽しい波は楽しい波を呼び、自然と引き寄せあい、ますます楽しいどんどん楽しいが集まってきちゃう、響きあうんですよね。」心地いい場の響きあいは、人付き合いでも同じだが、足し算ではなく掛け算になっていく。近代社会が忘れ去った生き方がここにはあった。
発酵していると腐らない
「 みなさんのお腹も毎日発酵しています。発酵していると腐らないです。ぬか床と同じです。」なるほど、面白い。どうしてそう考えるようになったのか。
蔵元に婿入りし、儲ける会社に自分がしてやると、肩肘張って仕事に経営に翻弄されるが、売れる酒造りに儲かる経営を優先させたことで番頭が次々辞めていく。
婿入り10年目、走り続けた足が急に奪われる出来事がおき、直腸の管が腐って痔ろうになった。ストレスだ。
2週間の入院生活を強いられ、ベットの上で考えるのは酒蔵の経営と自身の健康のことばかり。これまでの生き方や考え方が行き詰ってしまった原因なのだと気が付く。自然と反したり、調和をとらない行いの積み重ねが「腐る」という事態を招き、身体の破綻が起こる。この時35歳。茄子や胡瓜は放置すれば腐るがぬかみその中に漬ければ腐らない。味噌も醤油も製造過程で腐った話は聞いたことが無い。熟成の大切さだ。ごく当たり前の事に気が付いたのもこの時だった。「発酵しても腐らない」
人間の身体も同様である。腸内の環境はほどよく発酵菌優勢というのがいいそうだ。発酵菌によってもたらされる「腸内発酵」が便秘を解消したり、免疫力を高め健康を維持していく。逆に腐敗菌優勢で腸内腐敗がもたらされれば、便秘や下痢、全体の免疫力が下がり不健康な道へまっしぐら。お腹の調子を決めるのも「発酵」と「腐敗」であり、腸内の微生物はお腹がいい発酵状態の時はいい発酵を呼び、腐敗など寄せ付けないことに気が付いた。
腸が腐るという体の異変から、すべてにおいて発酵の道を選んで歩むことを決意し、自分も発酵、会社も発酵していくことを決心する。そこから原料を見直し、酒造りの根本である米を無農薬の米へ代える。口で言うのは簡単だが、容易なことではない。造り酒屋の経営の柱は原料代と人件費。お米の値段は大変大きな問題である。これまでのお米の3倍の値段。「いかに儲けるか」という私利私欲を捨て、ただただ本物の酒造りを始めることに誠意を傾けた。「発酵すると腐らない」。日本酒はまさに発酵の力によってつくられていたのだ。酒蔵のタンクで起こっているブクブクブクは発酵であり、コウジカビという微生物が米のデンプンを糖に変える。そして酵母がこの糖をアルコールにしているのである。酒蔵には「蔵付き酵母」が活躍している。蔵の土壁や黒光りした柱、天井や木桶などにもびっしり住みついている。

発酵場は微生物と響きあう場である
「 うれしき」「楽しき」「ありがたき」の「御酒ひびき」が寺田本家の商売の鉄則だそうだ。
うれしき……相手に喜びと満足
楽しき………楽しく働く
ありがたき…無限に感謝する
人がうれしいと思うこと、自分が楽しいと思うこと、ありがたいと思って商売をしていくと自分も回りも発酵していくそうだ。
食の学校のセミーナーの多くで感じることだが、「かつての私は自分の利益、会社の利潤、といった経済優先で、効率化を突き詰め、絶えずお金を追い求めていました。」とお話される方が多い。転機は疑問や違和感から、または自身が病気になることで気づかされているようだが、皆、経済優先の人間のリズムではなく生命の自然なリズムに人間が合わせていくことから「命(生命)が喜ぶ」本物をつくり出している。寺田本家の寺田さんもそのお一人だった。


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