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【食コラム】 苦くておいしい味の記憶

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2010年10月07日

塩川恭子の食コラム
うこぎ(五加)
「トゲに気をつけて柔らかい葉だけ摘むのよ」「わかってる!!」

春から初夏にかけて「うこぎ摘み」は私の朝の日課だった。裏庭をぐるりと囲んでいたうこぎの生け垣。学校の行き帰りに新芽の伸び具合を覗く秘かな楽しみ。家人に「うこぎ、うこぎ」と大騒ぎをするものは他にいず、「うこぎ番」は競争なしの独占だった。

ウコギ科、ウコギ属。古くは中国渡来の薬用木らしいが、北日本ではごく身近に見られた。タラノキ、コシアブラ、ウドの仲間というから山菜好きにはたまらない味だ。ほのかな苦みと特有の香りがあり、てんぷら、おひたし、うこぎ飯と食卓に旬をそえてくれた。軽く塩ゆでし、焼きみそと刻んだクルミとの「切り和え」は母の味。私の一番のお気に入りメニューだ。

時経て、何時しか消えていった「うこぎ」。今山形県米沢地方の観光ブームに一役担っている。江戸時代、米沢藩主上杉鷹山が食用と敵の侵入を防ぐために垣根として奨励したとされる。うこぎそば、カステラ、まんじゅう、暮らしの中で育て継がれてきた「うこぎ」が今風に元気だ。

その米沢を訪れる機会があった。まさにうこぎの季節真っ只中であったが、あいにく直売所、レストランも休業日でがっかり。立ち寄った創業200年という味噌屋さんでその話に及んだ。「そんなら、家の畑で摘んでおいでなさいな」。助っ人も加わって何十年振りのうこぎ摘みが実現した。頂いたうこぎは早速うこぎ味噌に。記憶にある母の味には近づけなかったが、米沢人の暖かい人情が、こよなくいい味に仕上げてくれた。


山菜の女王・シオデ(牛尾菜)
「ひでこ節という秋田の民謡知っていますか?あれはひでこという娘への恋歌ではなく、夏になるとシオデが待ちきれない、という意味すよ」そう話してくれたのは鳥取でシオデ栽培に取り組む馬野さんだ。

シオデ - ショデコ - ヒデコとなったらしい。山菜の女王といわれるシオデだが、いかに山菜マニアでもこの女王様にはめったにお目にかかれない珍重品。ユリ科の多年草に姿かたちがグリーンアスパラによく似ていて山のアスパラともいわれる。

北海道から九州までの原野、山林の縁で自生していたが、開発とともに激減、絶えてしまった。栽培は極めて難しい。発芽に2年、1年に10センチ程度しか伸びず、また管理に手間がかかる。馬野さんは商品化まで20年を要した。そのシオデを頂いたことがある。なるほどアスパラとよく似た味だが、まろやかでコクと風味があり、かすかにほろ苦さも感じる。分析によるとたんぱく質もカリウムなどのミネラル類はアスパラの倍以上という。どう食べてもおいしいが、てんぷらとおひたしが一番。馬野さんが納めている関西の料理屋さんでは、予約客が「シオデ待ち」なのだそうだ。

秋田出身の奥さんが娘時代に毎年夏を待ち、楽しみにしていたシオデ。その味の記憶が20年かけて鳥取で再現されたのだ。


苦みがくせになるトコロ(野老)
そろそろコタツが欲しいかナ。そんな陽気になると近所のおばあちゃんたちの井戸端ならぬコタツ談義が始まる。コタツの上に新聞紙を広げ、ナイフで何やらせっせと削り始めてはホイッとほお張る。不思議そうにのぞきこむと「食べてみるかい?」と口に入れてくれた。ホッコリとかすかに甘い?やがて強烈な苦みが追っかけてくる。「にがーい!」と叫ぶ私をみて「子供の食べ物じゃないからね」おばあちゃんたちが笑う。トコロとの強烈な出会いであった。

形は一見毛むくじゃらの根しょうが。葉はジネンジョに似ていてお年寄りのいる家では庭の隅によく植えていた。「通の大人のおやつ」だったらしい。「苦トコロ」はひたすら苦いだけだが、「甘トコロ」は苦さの中に栗のような甘さがある。このトコロ、実は「くせになる」のだ。「変な子だねえ」といわれながらコタツ談義の常連になってしまった。小刃の使い方をおぼえたのはこのトコロのおかげである。

何年か前、岩手県二戸の尾田川農園を訪ねた時のこと。雑穀の最後の仕上げは箱の中に広げてひとつひとつ異物を選別する。その作業に携わっていた地元のお年寄りたちがなんと、休憩時間にせっせとトコロを削ってほおばっていたのだ。「いやあ、世代交代でトコロを知っているスタッフはもう居ないねえ」と尾田川さん。ほんの数年前のことなのに、またひとつ、苦くておいしい味が記憶だけになってしまうのだろうか。
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投稿者: 食の学校 日時: 2010年10月07日 15:30 | パーマリンク

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