【食コラム】 復活するアサクサ海苔
« 【セミナー・イベント】 今後開催予定のセミナーのご案内 | メイン | 【食コラム】 苦くておいしい味の記憶 »
2010年10月07日
海の恵みと太陽の恵みがもたらす海の宝もの。日本の伝統食海苔。そう言うは易しであるが、実際私たちは、海苔の歴史や生産現場、流通の仕組みなどどれだけ知っているだろうか。かく言う私自身もそうだったから―。
かなり以前の話になる。子育て奮闘中の知人があわてふためいた様子で聞いてきた。この頃、海苔が何か変ったのですか」と。子どもが海苔を食べなくなってしまったのだという。既に食卓での海苔の存在が薄くなってしまっていたし、海苔が大好きな子どもという話も珍しい。だが、彼女にとって「子どもが食べない」というのは深刻な事態だったのである。
管理栄養士である本人曰く、「恥ずかしながらわが子の野菜嫌いを治せない!」が悩みの種。あれこれ工夫してみてもやっぱり駄目。無理強いで拒否反応まで起こしてしまった。その野菜不足を海苔で補っていたというのだ。
当時、海苔業界が消費拡大のために催す料理コンクールでは入賞の常連だった。ご飯、巻きもの、揚げもの、ふりかけ、彼女のメニューには必ず海苔が登場した。グランプリになった「海苔のミルフィーユ」。トマトとスライスチーズ、何層もの海苔とのバランスは見た目も美しく、いまだに印象に残っている。
海から生まれた健康食品。海苔は栄養価も高い。一枚に含まれるタンパク質は鶏卵半個分、ビタミン類やミネラルも豊富。陸上の動植物からは摂取しにくいB12群や現代人に不足が心配されている亜鉛、ヨウ素、鉄などの微量要素も多い。昔から「海の宝もの」といわれてきた。野菜不足を補う理には十分叶う。
その頼みの海苔を食べない!子どもの言い分は「噛み切れずに口の中に残るのが気持ち悪い」のだという。産地も購入先も変えていないはずなのにといぶかる彼女に私は適切な答えを返してあげられなかった。
海や海苔養殖の現場で何が起きているのか。このことが「海苔」と正面から向き合うきっかけだった。
今思えば「海苔はアサクサ」という時代は既に遠く、汚染に強くてつくりやすい、大量生産向きのスサビ海苔が主流となってしまった頃であった。毎日食べていたからこそわかった違い、子どもの味覚は侮れない。その繊細な味覚をこわし続け、食べものを工業品にしてしまった私たち大人の責任は大きい。
海の農薬といわれた「酸処理」をせず、在来種のアサクサ海苔を守ろう。そう努力をしてきた生産者たちがいる。鹿児島県出水市。一月下旬、志半ばで他界した古賀重美さんの養殖場があった福之江浜。そこに集まった漁師仲間たち8名。古賀さんがこだわってきた手摘み、手漉き、天日干しにチャレンジしようという面々である。福之江浜は背後に紫尾山、矢筈岳という名山を控えた汽水域、もともと豊かな漁場として知られている。その浜を守ろうと漁協が先頭に立って「浜全域で、酸処理を行わない」という方針を打ち出したのである。当日は遠巻きに眺めていただけの漁師さんも「よっしゃ」と飛び入り。TVや新聞の取材陣も加わり、総勢約50人大盛況の海苔づくりイベントとなった。
今、アサクサ種は絶滅しかけている。わずかに残っていても、強いスサビ種が入り込んでくるので、純粋なアサクサ種はほぼ皆無に等しい。福之江浜の海苔は今年、試験場のDNA検査でほぼ9割近くアサクサ種が残っているという証明を得た。
手漉き海苔つくりに集まった皆さんは継続を確認しあい、次シーズンへの準備を始めているという。海苔本来の甘味があり、パラリと口どけがよく、磯の香が広がるアサクサ海苔。その至福の味わいとともに、汚染されないきれいな海をぜひ残したいものだ。

トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://shokunogakkou.com/_mt/mt-tb.cgi/178




